鬼来迎 頁2


「賽の河原」


「賽の河原」。子供の亡者達が石を積んで遊んでいるところへ黒鬼・赤鬼が出てきて捕らえようとする。そこへ地蔵菩薩が現れ鬼を打ち払って亡者達を救い出す。


南無阿弥陀佛 阿弥陀佛 南無阿弥陀佛 阿弥陀佛、
帰命頂礼 地蔵尊 これはこの世と こと変り 賽の河原の初旅に

和讃の響きが聴こえる中、暗闇を竹杖で探り歩く亡者に連なり、子供の亡者の列が続く。


一つや二つ三つや四つ 十より下の幼児が 小石を集めて塔をくむ
一重積んでは父の為 二重積んでは母のため 三重積みしその石は
兄弟眷属わが為と 日も早や山瑞に隠るれば 阿責の鬼が現るる

賽の河原で石積みをしていると、獄卒の黒鬼、赤鬼が石を蹴散らしてしまった。おびえる亡者たち。

黒鬼、赤鬼
「幼児たち、良く聞けよ
汝等父母娑婆にあり
朝夕ただ むごいや可愛や いとしやと思うばかりにて
追善供養の心はなし
皆、汝等の罪となる
われらを恨むことなかれ」


そこに地蔵菩薩が登場し、獄卒を追い払い子供らを救った。


子供の一人を抱きかかえ、地蔵菩薩は亡者たちを従え去っていった。

南無阿弥陀佛 阿弥陀佛 裳裾を給えよ地蔵尊

再び、南無阿弥陀仏の和讃の声が静かに響いている。


「釜入れ」


地獄の釜ゆでの場。逃げ惑う亡者を鬼婆が釜に投げ入れ、鬼たちとともに火を煽ぎ薪をくべる。

赤鬼 「黒公ゆだったろうか」
黒鬼 「まだまだ」

茹でられ苦しむ亡者を赤鬼が棒で釜に押し込み、鬼婆はさらに薪をくべ渋団扇で火を扇ぐ。

赤鬼 「黒公ゆだったぞ」
黒鬼 「首でも切って喰らおうか」

ぐったりと動かなくなった亡者を鬼たちが吊るし上げて運び去った。


「死出の山」


「死出の山」。亡者は鬼たちに火が飛び出す腕を持たされ、死出の山へ追い上げられた末、大石で押しつぶされ、下へ突き落とされる。口から血を流して苦しむ亡者。そこへ観音菩薩が現れて、亡者を救い、鬼と問答をかわして悠々と退場する。鬼は悔しがって亡者の卒塔婆を抜き取り、「さては成仏いたせしか」とそれを投げ捨て怒号を発する。


お膳を持ってきて、亡者に無理やり箸を取らせようとする鬼婆だが、亡者が食べようとすると椀の中から火が飛び出した。

鬼婆「よしよし、死出の山の呵貢いたそうか」


火が飛び出すお椀を鬼婆に持たされた後、亡者は死出の山へと追い上げられ、黒鬼から大石で押しつぶされて口から血を吐き、再び下へと突き落とされた。


地獄の獄卒・赤鬼と黒鬼に責め苛まれ、這いつくばる亡者。

するとそこに観音菩薩が現われ、赤・黒の鬼と相対峙した。


観音「鬼王、この罪人を許せ、離せ」

黒鬼「そもそも、この罪人と言っぱ」
赤鬼「娑婆国中の大悪人なり」

観音「その所以如何」

黒鬼「堂塔佛閣に一度の参詣むなく」
赤鬼「一紙半銭の施しもなく」
黒鬼「昼は世路の暇を惜しみ」
赤鬼「夜は鴛鴦の衾を重ね」
黒鬼「空しく、財色滋味をむさぼるばかりなり」
両鬼「疾く去り給え」

観音「鬼王の断るところ道理なり、然りといえども我等が大悲の万行は、八寒の氷に身を閉ぢ、八熱の焔に身を焦がし、無間を栖となし、衆生の苦息に代る故なり。縦え柱械枷鎖、苦刺鉄斧の苦患に倒れたりといえども、自ら代りてこれを受くべきなり、ただこの罪人を許せ、放せ」

黒鬼「娑婆の善悪は、浄玻璃の鏡の面に」
赤鬼「いささか争うことなし」
黒鬼「それ、われらの姿といっぱ」
赤鬼「樫貧の業 鬼となりて身をせむ」
黒鬼「みずから執着の瞋恚は鎖となって身を縛り」
赤鬼「三毒は刀剣となって身を切り」
黒鬼「五欲は火焔となりて身を焦がし」
赤鬼「自業自得の理」
黒鬼「何ぞ、此の罪人、逃るべけんや」
両鬼「疾く去り給え」

観音「鬼王の重ねて断わるところ、歴然の道理なり。然りといえども、我等が万行の功力、大悲の恵、日の照らす時は、八寒の氷も解け、六道万行の涼風吹くときは、八熱の焔も消ゆるとやら、そのうえ一本の塔婆を立て、大乗涅槃の金文を書き、鬼人応答なさしむべきなり、只この罪人を許せ、放せ」

観音菩薩は地獄の獄卒と問答を交わす。


亡者を救い、鬼と問答をかわして悠々と退場した観音菩薩。

そこにはいつの間にか亡者の卒塔婆が立っていた。


観音菩薩と亡者が消えた後には、一本の卒塔婆が立っていた。悔しがり、奇声を発して飛び回る獄卒の黒鬼と赤鬼。

「亡き人の今は佛となりにけり、名ばかり残す苔の下露 扨は成佛いたせしか」

黒鬼は卒塔婆を引き抜き口上すると、卒塔婆を前に投げつけた。


広済寺 千葉県山武郡横芝光町虫生 2011年08月16日撮影


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