少年時代/藤子不二雄 少年マガジン 昭53(’78)~
人はだれもが少年時代をとおる!
その少年時代にこそ人間の純粋な魂が光りかがやく!
これは日本が狂気の時代に突入していたころ
その純粋さゆえにたたかい傷つき
そして手をにぎりあった
ふたりの少年の愛とにくしみのドラマである(前文より)
昭和19年夏、戦争も末期。東京から富山の山村に疎開した進一は、泉山小学校5年男組の級長、タケシと出会った。進一とタケシは、2人でいる時は気を許せる親友になった。だが・・。
「少年時代」は、昭和53年の夏からちょうど1年間連載された。物語中の時間も、進一が疎開した5年生の夏から、終戦となった6年生の夏まで。連載当時の昭和53~54年、学校の帰りに少年マガジンを立ち読みし、多少飛び飛びながら進一とタケシの1年の行方を私も追っていました。
単行本化された時にはすぐに購入したのですが、1、2巻が出た後に、次を見かけないなと思っていたら、いつの間にか最終の5巻が出ていました。田舎だったので本が充分に回ってきていなかったようです。その後20年近く経って、映画化された時だったか、愛蔵復刻本が出てようやく全編手に入った。
進一と、2人でいる時は気を許せる親友・・となった少年タケシの性格が複雑…というか、いや実際には複雑ではなく、よく分かる純情な性格なんです。タケシはずっと成績も村で一番、喧嘩も中学生よりも強く、男気も持っている。だがクラスでは力と恐怖で支配する暴君となり、皆から恐れられていた。
学校にいる時、悪童仲間といる時のタケシのあまりの変貌に、進一は戸惑い、泣かされ、底知れぬ恐怖を覚えた。しかし2人でいる時のタケシは、顔を輝かせ進一と将来の夢を語り合い、そして優しい。そのタケシに嘘はない。
夏と秋と冬、春が過ぎ再びの夏、タケシは力で押さえつけていたクラスの皆から集団で打ちのめされ、失脚した。以後、今ならタケシと本当の友達になれると思った進一とも誰とも口を利かず、タケシは自分を閉ざしてしまった。間もなく戦争は終わりを迎え、東京に帰ることになった進一だったが…。
この「少年時代」のラスト、泣きましたね。読んで泣いたマンガ作品はいくつかありますが、「少年時代」は特に。叩きのめされて這いつくばったタケシの姿に泣く進一に、進一と同じくタケシに感情移入して魅力を感じていたこちらまで胸が締め付けられてしまって、その後の本当の最後のシーンに涙腺切れましたよ。
マンガの好きなキャラクターの中でも、このタケシは本当に忘れ難い。
原作は藤子不二雄先生と同年代の作家、柏原兵三氏の少年小説「長い道」より。柏原氏が子供時代に富山に疎開していた頃の体験がベースですが、偶然ちょうどその同じ時期に、藤子A先生もすぐ近くの村に疎開されていたそうで。藤子先生が子供時代に実際に観ていた富山の四季の風景も美しく、本当に好きな作品です。この「少年時代」と「まんが道」があるから、私は藤子不二雄A先生が大好き。
’90年に映画化された時もやっぱり泣かされてしまった。マンガが実写映画になると殆どの場合、もの凄くがっかりさせられるのが常ですが、数少ない成功作品のひとつです。
少年時代/藤子不二雄
少年マガジン 昭53(’78)~