地獄くん〜地獄の声/ムロタニ・ツネ象地獄くん/ムロタニツネ象 少年サンデー/少年/中1時代 昭和41(’66)年 ~ 43


保育園の園舎で読んだ「地獄くん」に、もうひとつ、地獄くんが全く出てこない、ですが凄く印象深くて忘れられない「地獄の声」という一編がありました。「地獄くん」とは違う短編だとずっと思っていましたが、コミックスには「地獄くん」として収録されています。

暴走スポーツカーにはねられた三太郎少年は、亡者の行進に引きずられてエンマ大王の元に辿りついた。三太郎に極楽行きを告げるエンマ大王。死者である印に、三太郎の身体にはヘソがなくなっていた。

まだ死にたくない、もう一度両親に合わせて欲しいと願う三太郎に、エンマ大王は、死界の掟を破って「24時間の契約」を条件に、二度目の生命を与えることを決めた。

「24時間の契約」とは、三太郎が生き返ってから24時間、どんな人間とも喋らないこと。喋れば死界へ逆戻りして、極楽への道を進むことになるというものだった。

…これを読んだ時の、どきどきした気持ちは今でもよく覚えています。冒頭の、暗闇を歩く三太郎がふと気づくと、地面いっぱいに果てしなく手が生えていて、亡者の行列に三太郎を引っ張っていく場面から、マンガに引き込まれました。

生き返った三太郎を両親や友人が心配しても、時を刻む地獄時計の音が「ゴッチゴッチ」と聞こえてくる三太郎は何も言うことが出来ない。家を飛び出して、建設現場の土管に隠れて孤独に耐える三太郎。お腹がすいてパンを買うが、店のお兄さんにお釣りをごまかされて、抗議すら出来ない。三太郎をはねたスポーツカーの男たちが恐喝をしている現場を見ても、助けを呼ぶことも出来ない…。

もう自分の事のように、完全に感情移入して読んでました(笑)。…ここまでの怪奇でスリリングな展開も、幼児にとっては充分過ぎる忘れられないトラウマですが、さらに物語の結末は、余りにもショッキングなものでした(以下ネタバレありです)。

夜が明け、「24時間の契約」完了の時間までもうあとわずか2時間ほどの辛抱と、孤独に耐えて朝の空気を味わう三太郎。その目前で、道路美化清掃中のおじいさんがスポーツカーにはねられた。運転していたのは、三太郎をはねた同じ男達だった。

通りがかりのダンプカーの運転手に事故の罪をなすりつけ、集まってきた通行人の前で運転手を殴りつける、スポーツカーの男達。見かねた三太郎は、そしてとうとう叫んだ。

「うそだっ!! ぼくはみたぞ!! 犯人は そのふたり組だ!!」

前回の「地獄くん」のお話で、私は地獄くんの存在を「人の力のおよばない”因果応報”のビジュアル的象徴」としましたが、この「地獄の声」では、三太郎は因果どころかエンマ大王から極楽行きと判定されているほどの善として描かれているのに、「24時間の契約」を果たせなかったばかりに、無情に死界へと引き戻されてしまいました。「それにしてもなんと、美しい死にがおだ」という、現場の警官の憐れみの言葉こそあったものの。

幼児の私にとって、人の力のおよばない”死”という概念を初めて突きつけられた、忘れようのない一編でした。

地獄くん/ムロタニツネ象
少年サンデー/少年/中1時代 昭和41(’66)年 ~ 43

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